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I want to... Dream as if I'll live forever. Live as if I'll die today.
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課題小説その3。
児童文学というか童話風を目指して、迷走\(^o^)/
大筋は一日で書きあげたのですが、後半はほぼ物語に引き摺られてしまいました。
一応、描写練習も頑張って見たのですが、うーん、という感じです。

友人の一人が、一番私らしい(私っぽい)と評してくれた作品でもあります。
ふむ。

ちなみに物語の最初のイメージは、
引っ越しで空き家になってしまった家があったのですが、
その中を覗きこんだら本当に真っ暗で何にも見えなくて、
(そもそも何もない空間になっていた訳ですから)
ぞっ、としたところから、なんか、生まれてきてるんじゃない…かな……?
 



 
 照りつけられた黒いアスファルトにうんざりしながら、黒猫の影は青い空をじっと睨みつけていました。空の少し低い辺りで、白い太陽が燃えています。ちょっと前まで控え目におどおどしていたくせに、今日は随分威勢がいい。黒猫の影はぶつぶつぼやきました。寒いのも嫌いだ。けれど熱いのはもっと嫌いだ。涼しくて風のよく通る場所を探して、黒猫の影はのっそりと歩きだしました。
 貴方は首を傾げているかもしれませんね。黒猫の影。この黒猫は影という名前なのかしら?と。いいえ、違います。あなたの足元にも落ちている、本物の影の話です。貴方は、影は大人しく、従順に、その持ち主にくっついているのだと思っているかもしれませんが、そうではないのです。とはいえ、ほとんどの影はそうですから――きっと貴方の影も――安心してください。けれど、ごく稀に、持ち主に従順でない影もいるのです。影が動く通りに、持ち主が動くということがあるのです。まあ、持ち主は、まさか自分が影の意思で動いているなんて、夢にも思わないのですが。ともかく、この黒猫の影は、そういう影でした。しかも、今はもういない魔女からの命令を記憶に刻んで生まれてきた、一級品の影でした。
 空を横切って、幾重にも張られた黒い電線を止まり木に、雀たちがお喋りに興じています。ぬうっと聳え立つマンションが落とす影に逃げ込んで、黒猫の影は息をつきました。しっぽをゆらりと振って、辺りを見回します。
 白い漆喰で塗られたマンションの壁には、窓のようなものがたくさんくり抜いてありました。ガラスの曇りが見えませんから、多分、何もはめ込んではいないはずです。窓には白い柵が打ちつけてあって、そこから様々な緑たちが、太陽に向かって身を乗り出していました。蔦だけは、大人しく壁に寄り添って垂れ下がっていましたが。
暑さのせいか、少々ぐったりしている緑たちの中で、小さな赤い花が咲いています。丸い葉の階段を駆け上がって飛び出したような、鮮やかな花でした。黒猫の影は、喉を反らせて、空へ伸びる赤を見つめました。
――黒猫の影は、いつも何かを探していました。それが魔女の命令だったからです。けれど、何を探せと言われたのか、肝心なそれを忘れてしまっていました。まあ、見つかれば思い出すだろうと、黒猫の影は心配なんてしていませんが――あの綺麗な赤色が、そうかな、と黒猫の影はちょこっと思ったのです。けれども、すぐにふいと視線を逸らしてしまいました。もっと綺麗な赤に気づいたのです。
白い壁の上に、蟻の行列のように規則正しく、透き通った赤い球が並んでいました。黒猫の影は、あれは何だろうと思って、首を傾げました。水で造ったみたいに透明できらきらしているし、葉っぱもない。林檎だろうか。そこまで考えて、黒猫の影はしっぽをぴんと立てました。目があれば、きらりと輝かせたに違いありません。ここで待っていたら、雀たちがあの綺麗な林檎を食べに来るかもしれないと思ったのです。
 けれどもちろん、何も来るはずもありません。随分長く待ってから、黒猫の影は諦めて公園へ入っていきました。
日陰に入ると、すぅっと涼しくなりました。木漏れ日が、風と戯れて踊っています。まだ半透明な若葉たちが、青空の縁をぐるりと囲み、手を繋いで笑っていました。風が吹く度、若葉達の身体の中で、光が散りました。黒猫の影が、誰もいない滑り台の天辺に陣取って見上げると、人が作ったコンクリートの建物は、何も見えなくなりました。――なんだか怖くなって、黒猫の影は、顔を背けました。視界を埋め尽くす、煌めく緑と青空は、ほんの少し、眩しすぎたのです。
黒猫の影は、滑り台を駆け降りて、日向ぼっこをしていた鳩たちを蹴散らすと、茂みの中に飛び込みました。幾重にも重なった細い枝が、黒猫の影を守ってくれました。白っぽい土と、打ちこまれた灰色の囲い石の間を、蟻が何匹か歩いていきます。一匹は、自分よりもずっと大きい、蜆蝶の翅を一枚、引き摺っていました。夕方くらいになれば、空はこの翅のような美しい瑠璃色になるでしょう。黒猫の影は、夜が恋しくなりました。どうにも、やっぱり、昼間は明るすぎるのです。いいえ、夜だって、この街では十分な暗さとは言えませんでした。
眩しいのは――黒猫の影は、運ばれていく翅を見ながら、ぼんやりと考えました。眩しいのは、別に、嫌いじゃない。きっと、僕が探さなきゃいけないのは、光の仲間だ。いつだって気づいたら光を探しているんだもの。けど、ずっと見ているのは少し苦しい。息も、胸も。僕は光が嫌いじゃないのに――
ふいに、何かの影が身体に被さってきて、黒猫の影ははっと顔を上げました。人間です。上から下まで真っ黒な人間が、立ち竦んだ黒猫をじっと見下ろしていました。
ほんの一瞬の間でしたが、黒猫の影は人間の目をしっかと見つめました。人間の、真っ黒な瞳を見つめました。
ぴんと上げたしっぽが、震えだしました。
黒猫の影は、思い出したのです。魔女に何を命じられたのか。彼女の、か細い声が、膨れ上がって自分の中に響き渡っていくのを、黒猫の影は呆然と聞いていました。そうです。この、決して光を絶やさない東京という街で、本当の暗闇を見つけ出す為に、黒猫の影はやってきたのです。魔女が生きられる、全ての光から忘れられた暗闇を。光の裏に存在する――探そうとしても、針の先ほどの光もない暗闇を――
そしてそれは今、目の前にありました。影よりも、夜空よりも暗い、光の欠片もない瞳。黒猫の影は我に帰ると、歓喜の声を上げて、駆けだしました。
人間が歩く速度なんてたかが知れています。あっという間に追いつけると、黒猫の影は思いました。けれど、いつまでたっても、ちっとも追い付けないのです。黒猫の影はもがきました。石畳を駆け抜け、山と積み上げられたごみ袋を迂回すれば、のっぺらぼうのポリバケツの群れにぶつかりました。襲いかかってきた銀色の自転車の前輪から慌てて飛びのき、黒猫の影は走りました。低く鳴り響く金属音の地響きから逃げます。舌打ちと共に吐かれた誰かの唾を飛び越えます。野晒しの時計を庇うビニール傘が、喘ぐ黒猫をじっと見ていました。
人間が立ち止まらなければ、黒猫の影はとうとう追い付けずに終わったかもしれません。けれど、人間は立ち止まりました。小さな家の窓を覗きこんでいます。木目の荒い木を組み上げたその家は、コンクリートだらけの街の中で、やけに浮いていました。背中から太陽に照らされて、人間の影は、持ち主を置き去りに、家の中に入り込んでいました。
「やっと見つけた」
 黒猫の影は、人間の声を聞きました。その瞬間、身体を抉るような衝撃があって、黒猫の影は、意識を失いました。
 家の中には、何も見えない暗闇が広がっていました。深い闇に溶け込んだ人間の影が手招きするにつれて、闇が震え、何羽もの影の鴉が、窓から飛び出していきました。その内の一羽が、黒猫の影を嘴で打ちのめしたのでした。今や、黒猫の影は、鴉の影でした。
 そんな馬鹿なと貴方は笑っていますね。ええ、貴方には見えません。貴方の影に聞いてごらんなさい。きっと、よくあることと答えます。彼らには、影の鴉を見ることが出来ますから。
夜でも明るい街ほど鴉が多く住んでいるでしょう。暗闇を覗く時は気をつけなさい。貴方の影が勝手に手招いて、影の鴉を呼び出してしまうかもしれません。そしてその影は、暗闇を恋い慕う黒猫の影を、殺してしまうのです。

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