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I want to... Dream as if I'll live forever. Live as if I'll die today.
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課題小説その2。
ガムテープで塞がれていた郵便受けから着想。
描写練習というよりはストーリーの方にちょっと傾いちゃってますかね…

4本の中で、ある意味一番「ファンタジー」なお話です。黒猫よりもずっと。
ちらほらと実在の舞台や事件が出てきますが、
架空の名前、架空の島、実際には存在しなかったものがたくさん書いてあります。
リアリティも一番低め…の…気がする。
雰囲気で突っ走り気味です。でも、雰囲気だけならば、割と好みに書けたかな…

ツッコミしないで読んだ方が楽しめるかもしれません。げふう。

 





「参ったなあ……」
配属されたばかりの新米郵便配達員の青年は、一通の絵葉書を手に、途方に暮れていた。何処かの南の島なのか、白く輝く砂浜と、澄みきった海と空とが、独特なタッチで描かれた葉書に視線を落とし、もう一度同じ呟きを繰り返す。
「……参ったなあ」
 目の前の郵便受けには、ガムテープの封印が何重にも施されていた。黒のマジックインキ(極太)を使ったよりもありありと、郵、便、物、お、断、り!と書かれているようなものだ。もう何度も確認した宛先を、青年は指でなぞった。絵の中で、薄く紗を掛けたようになっている部分に、黒い絵の具で書かれた宛先は、南の島の風景に不思議と溶け込んでいた。――日本、東京都、豊島区西池袋。左手で書いたような酷い字だったが、判読は出来る。間違っているとは思えなかった。
「留守……にしては、洗濯物も出てるしな。庭だって水やりしてあるっぽいし」
 長期間留守にするから郵便受けを塞ぐ、というのなら分かる。けれど、家にいるのに郵便受けを塞いでいるということは……
「受け取り拒否?」
 どうにも分からない。こめかみを滑り落ちてきた汗を、青年は溜息をつきながら手の甲で拭った。じっとりと蒸された空気がまとわりついて来る。日差しがきつくなってきた。いつまでもここで突っ立っている訳にもいかない。
扉の間に挟んでおこうか?――郵便受け取りを拒否している家の扉に? 今は一度、局に帰って、上司に伺いを立てた方がいいか?――それが一番良いような気がした。けれど、迷ったあげく、青年はインターホンへ手を伸ばしていた。宛先は、ここなのだ。分かっているのに、届けないまま持ち帰ることは出来ない。微かな好奇心も、青年の背を後押しした。
「――はい」
 しばらくの静寂の後、しわがれた男性の声が聞こえてきた。やっぱり留守じゃなかった。自分の予想が当たっていたことを内心喜びながら、青年はインターホンへ話しかけた。
「那賀井、勇さん、ですか?私、郵便局の者ですが、郵便を」
 ガチャンッ、と鋭い音を叩きつけられ、青年は言葉を失った。何が起きたのか把握するよりも早く、引き戸が派手な音を立てて開いた。少しくたびれた灰色のTシャツを着て、サンダルをつっかけた老人が、庭に敷かれた石渡りをつかつかとやってきた。青年の目の前に立つまで、あっという間だった。ぽかんと口を開けている青年を一瞥するや、老人は吐き捨てるように言った。
「お前はこの郵便受けが見えないのか?ええ?何故わざわざ持って寄こした?いらん!俺はいらん!持って帰れ!」
「え、あ、あの、すいません、」
「二度と持って来るな!燃してくれ!二度と持って来るな!」
 日に焼けた顔を歪め、片手を振ると、老人は嵐のように引き返して行った。ぴしゃんと引き戸が閉ざされても、青年はしばらくの間、郵便受けの前で突っ立っていた。
「……なんだあのひと」
 ぼそりと呻いてから、青年はもう一度南の島を見つめた。表面には、宛先しか書かれていない。遠慮がちに、青年は絵葉書を引っくり返した。
「うわ」
 見たこともない文字が、躍るように綴られていた。日本語ではない。少なくとも、アルファベットでもない。
「これじゃ、書いてあったとしても差出人の住所分かんないぞ」
 閉ざされたままの引き戸を見やって、青年は溜息をついた。怒鳴られたのも久しぶりだった。おかげで、さっきまで感じていた暑さは何処かに吹っ飛んでいたが。絵葉書を配達鞄の中へ戻すと、赤い自転車に跨り、青年は塞がれた郵便受けを後にした。
 確認を取らずに自分の判断で動いたことで、青年がもう一度説教される羽目になったのは、また、別の話だ。
 
 *
 
 淡い金色の光が、窓から斜めに差し込んでいる。きらきらと舞う細かい埃を片手で払いつつ、腰を屈めた老人は抽斗を掻き回していた。やがて、あったあった、と言いながら取りだしたのは、一枚の絵葉書だった。年月に色褪せてはいても、鮮やかなままの青い南の島が、夕焼けの光に浮かび上がった。得意満面な表情で、老人は振り返った。
「で、これがその絵葉書って訳だ」
 塗装の掠れた箪笥に腰かけて、足をぶらぶらさせていた若い娘が、呆れたように笑っている。何処か老人に顔立ちの似た娘は、高く結いあげた髪を揺らして息を継ぐと、肩を竦めてみせた。
「おじいちゃんも災難だったねえ。……ちょっと頭悪かったんだね?」
「……まあ、その、なんだ。いいじゃないか、それは」
 はいはい、と適当な相槌を返す娘に絵葉書を手渡し、老人は苦笑した。
「結局、送り返す先も分からなかったし、届けることも出来ないしで、処分するように言われたんだがな。若い頃は馬鹿だったからなぁ、つい、捨てそびれて……もう何十年も前の話だ。でも、綺麗だろう、その南の島は。捨てるのはもったいないくらいに」
「うん。どこの島の絵なのかな……」
「さあ、なあ。あのじいさんなら知ってたかもしれないが……もうとっくに、亡くなってるだろうからなあ」
 随分長い間、南の島の風景を見つめていた彼女は、ふと絵葉書を引っくり返した。――目を見開いた。現れた文字の列を、幽霊でも見たように息を詰め、まじまじと凝視する。老人が、訝しげに眉をひそめた。
「夏紀?どうした?」
「……おじいちゃん、さ、私が大学院で何の勉強してたか知ってる?」
「文化人類学だろう?」
「うん、そう。それでね、私、フィールドワークで……東南アジアの、本当に小さい……地図にも載ってないくらい小さい島の人達と、一年くらい一緒に暮らしたの。それで、その人達の、文字も、習ったの」
 絵葉書を見つめたまま、夏紀はそろそろと指を持ち上げた。踊る文字の一列一列を、添えた指でなぞっていく。つっかえつっかえ、夏紀は文字に意味を与えていった。
「――海の神の息吹が貴方に良い風を与えますように。新愛なるイサミ。今日は、とても素晴らしい日です。……何だろう、えっと、ディネイシャ、が、たくさん帰ってきました。本当に綺麗な満月でした、……から。……貴方が残してくれた、帰る前に、残してくれた紙に、顔料で、描いていた絵が出来ました。言われたとおりに、貴方の国の文字を、書き写しました。
 イサミ、いつかきっと帰ってきて下さい。みんなは嫌がるかもしれない、でも、私は待っています。貴方に海の指輪を捧げたいです、……これね、みんな言うのよ、貴方と結婚したいって意味で……。貴方が大好きです。貴方を愛しています。日付……書いてある。西暦に直したら、2003年、十二月二十六日」
 夏紀は、ぼんやりと顔を上げた。老人を見つめ、言った。
「おじいちゃんがこの葉書を配達しようとしたのは、」
「……二十三歳だ。2010年の五月だった」
「……あのね。フィールドワーク先で、仲良くなったお祖母ちゃんが話してくれたの。ずうっと昔には、海の真珠(ディー・ラシャ)っていう美味しい小魚がいて、一年に一度、満月の晩には島に帰ってきてたのにってその日は、近所の海からたくさん人が集まって、みんなでお祭りをしたのに、って。でもね、その小さな島は、2004年の大津波で、なにもかも、押し流されてしまったんだって……」
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